「……諸君。確かに今日はとても暑い。確実に真夏日だ。そして今日この棟は電気工事のため停電中、エアコンは使用できない。……だがね、これは無いだろう」
ハンカチで額に浮いた汗を抑え、クライムは言葉を紡いだ。普段なら余裕たっぷりに放たれる言葉が、今日は若干精彩を欠いている。
それは暑さのせい、だけではなかった。
彼の視線の先には、うず高く盛られたかき氷を頬張る『倶楽部』メンバーがいたのである。
胸中に浮かぶのはただ一言――『どうして こうなった』
「だってあっついんだもの、仕方がないでしょ」
胸の内を読んだのか(この状況で読めない方がおかしいくらいだが)、緋雪が投げやりに言い放つ。大量のかき氷を生み出したのはおそらく彼女だろう。
「まだ部室を氷漬けにしなかっただけマシだと思いなさいよ」
「そういう問題では無いだろう!」
柄にもなく冷静さを欠いていると分かってはいるが、茹だるような暑さに思考が霧散していく(ああ、完璧たるこの僕が、なんという失態!)
そこで彼はふと思いついた。緋雪は氷雪魔法の使い手だ。そして自分に対抗意識を持っているのか、すぐに武力行使に出ようとする。ならば、少し怒らせれば吹雪の一つや二つ、すぐ起こしてくれるのではないか。いやしかし、部室に被害が出そうな気もするが――と、ふいに視界の端に黒がよぎる。どうやら『倶楽部』きってのエースが、こちらの意図を読んでくれたらしい。彼に任せておけば大丈夫だろう。
不安要素がなくなったので、クライムは緋雪にぶつける言葉を考える。物理攻撃に出られたらたまったものではない、言葉には気をつけなければ――。
「現実を素直に受け止められない男って最低ー。ねぇ、マスターもそう思いません?」
思考をぶった切ったのは、鈴を転がしたような可憐な声。
「君も噛んでいたのかい? ルピア」
その名を呼べば、目前に彼女が現れた。手のひらに乗ってしまうくらいの小さな体に、透き通った羽。リータの使い魔の妖精、ルピアである。
「気軽に呼ばないでよ。水浸しにしてほしいの?」
「それは大変だ、水が滴ったら、ますますいい男になってしまう」
眠いのでギブアップ。
ルピアがいるのは、氷にするための水を生み出すため。
緋雪は、すでにある水分の操作は出来ますが、水そのものは作りだせないのです。
そこまでちゃんと説明したかった…orz
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